top of page

【海外の教育現場レポート】20もの異なる文化背景のともだちと過ごす、オーストラリアの幼児教育



 

EN-TRY世界交流で交流先としてマッチングすることの多い国、オーストラリア。日本との時差も小さく、多くの幼稚園や保育園が年間を通してオンラインライブを行っています。さらに、オーストラリアの自然や生き物はこどもたちにとって魅力的なようで、外国に対する興味関心を高める非常に良い機会だったと先生方からも喜びの声をいただいています。そんなオーストラリアの教育事情について、Acacia Children's Centre - St Albans(ヴィクトリア州)のMotoko先生にお話をお伺いしました。

 

■日本園とオーストラリア園の違い

 EN-TRYは現在14か国の国との交流を行っていますが、国によって、州によって、さらには園によって教育方針は異なるもの。日本でも、各園の教育・保育方針は大きく異なりますよね。そのなかでも、日本とオーストラリアで異なる点がある三つのポイントについてご紹介いたします。

一つ目は、多民族国家ならではの園の環境について。二つ目は、こどもの自由を尊重する園での過ごし方について。三つめは、政府と州による教育方針の提示についてです。


■お話をお伺いした先生

Motoko 先生 (Acacia Children's Centre - St Albans)


ドイツの幼児施設で教えた経験もあり、今はAcaciaのこどもたちに通常のカリキュラムをサポートしつつ、その内容に沿った日本語も教えています。


■多民族国家ならではの園の環境

オーストラリアは移民も多く、Motoko先生の園では、先生の国の文化背景は18か国、こどもたちは20か国とさまざま。国籍が違うというより文化背景の違いが大きいですが、自宅では母国語、園では英語で話すなど、複数の文化の中過ごしているこどもたちも多いそうです。園で主に使用するのは英語ですが、Motoko先生とのコミュニケーションでは、日本語の単語を使ったりして練習しているそうです。

ヨーロッパ・北米・南米・アジア・中東など、さまざまなバックグラウンドを持つこどもたち同士が幼いころから共に育つことで、自国文化に対する意識や、異文化への価値観に大きく影響します。

日本ではインターナショナルスクールを除き、ここまで多様な文化背景を持つこどもたちで構成された園は少ないですが、近年、日本以外の文化背景をもつこどもの数も増えてきた、というお声も耳にします。


先生方はどのような対応をされているのかお伺いしたところ、オーストラリア全土で使われている国家基準のフレームワークにについてご説明いただきました。

最後の項目でもご紹介しますが、オーストラリアでは、2009年から開始したそのフレームワークに基づいた育成方針と、ヴィクトリア州独自の基準、VEYLDF(Victorian Early Years Learning and Development Framework)(に従っています。この両方で示されている5つの原則の一つが多様性の尊重なのだそうです。

ですので多様性の尊重に注力するのは当然のことであり、例えば、こどもの所属する文化それぞれのお祭りをお祝いしたりしています。アフリカ系のイベントでは、ラマダン(断食)についての理解を深めます。全員が断食するわけではなく、食べない子もいますが、それを自然に受け入れる、という意識を育てるそうです。ほかにも、インド、華僑系のお祭り等 公平に必ず行うので、毎月のようにイベントを実施しているとのこと。18か国の文化背景を持つ教員同士で情報をシェアし、チェックしているからこそできることですよね。ちなみに教員の方々は2~4か国語を話すことができ、Motoko先生は日本語、英語、ドイツ語の三か国語を話すことができるそうです!



最初は英語が話せないこどもたちもいますから、そんなときはフラッシュカードが役に立ちます。先生たちはポケットなどにいれて常に持ち歩いており、片付けなどの行動をイラストで示すことができます。例えば、アフリカ系のこどもは手を洗う習慣があまり無いので絵で見せると伝わりやすいそうですよ。このフラッシュカードは、園でも活用できそうですね!


■こどもの自由を尊重する園での過ごし方

 

日本ではルールや決められた時間を守ることも重要だと考える園や保護者の方も多いですが、オーストラリアの方針は、こどもの自主性や興味関心を尊重することに重きを置いています。基本的には、こどものやりたいことを尊重することが一般的だと言われています。

例えば、アフタヌーンティーなどの時間があるのですが、そこではこどもが食べ終わるまで急かしたりせず待つことになっているようです。また、基本的にはこどもたちの好きな遊びをさせるため、みんなで集中して同じ遊びをする時間というのはあまり多くないとのことです。

しかし、集団での行動を身に着けるのも、こどもたちにとってやはり大切なこと。Acaciaではどのようにしているのかお伺いしました。


オーストラリアの中でもそれぞれの幼稚園で方針は異なると思いますが、Motoko先生の園では、グループタイムを設定しているそうです。お昼前に20分くらい前後、ルールがある時間を過ごし、残りの時間は好きなアクティビティを選んですごします。どうしても我慢ができない場合は、同じ部屋の中でも少し離れて本を読んだりすることもあります。

新学年が始まったばかりの2月は特に、プレキンダーから上がってきたこどもたちに過ごし方を教える期間なのだそうです。ルームリーダーの先生が主導し、グループタイムの前にお掃除の曲が流れたら片付けを行ったり、読書コーナーにきちんと座って先生の話を聞くために口を閉じたりすることを学びます。先生からのお話では、いかにおもちゃを大切に扱わなければならないかを話したりするそうですよ。


また、Acaiaではパスプログラムを導入しており、こどもたちがどのように友だちと仲良く付き合っていくかを教えるため、先生たちは心理学者のワークショップを受けています。ぬいぐるみを使ったパペットや表情を示したボードを使って、いまどんな感情かを表現したり、友達がどう思うかを考える時間があります。





このようにイメージをうまく使うことで、最初からうまくお話しできなくても、こどもたちはコミュニケーションを取る方法を身に着けていくそうですよ。



こちらの画像は、今日の感情を福笑いのような形で表現し、どうして?とコミュニケーションをとるきっかけにしているそうです。言葉だけに頼らず感情を伝える練習をすることで、コミュニケーション力の向上や、自分や友達を理解し考える力も身につきそうですね。


■政府による教育方針の提示

オーストラリアでは、Australian Children’s Education and quality Authority(ACECQA)が主体となって、National Quality Framework(NQF)という幼児教育の質についての枠組みを定めています。こどもたちの心身の成長と教育のための指標を定めており、チャイルドケアセンターやキンダーガーデンはこの方針に沿うような取り組みをしています。

さらにAcaciaのあるヴィクトリア州では、特に異文化に対する学びなども設定しています。また、異文化と同様にオーストラリアの先住民Indigenous (Aboriginal and Torres Strait Islander)に関しても学びます。 

経済の中心はシドニーやメルボルンですが、ヴィクトリア州は教育のヴィクトリアと言われています。4歳や5歳の子に外国語を教えると集中力が付くなどの研究成果に基づき、助成金が出るなど政府が積極的な投資をしており、幼稚園や保育園に外国の先生を雇うことができるようになっています。

 政府だけでなく州も幼児教育についての枠組みを用意し、さらにはそのためのリソースセンターなどを設けるほど、幼児の教育に力を入れていることが分かります。


■まとめ

 教育方針は国や地域、園によって様々です。しかしオーストラリアでは特に、多民族国家であることから異文化理解を重要視しており、幼児の教育にもそれが色濃く反映されていることが分かります。

 日本ではオーストラリア程、異なる文化背景を持つこどもが同じ場所で過ごす機会は今まで多くなかったかもしれません。しかし近年の国際化の速度を考えると、こどもたちが世界に触れる機会は昔よりもぐんと多く、そして深くなるでしょう。そんな環境を当然として受け入れるような素地が幼いころから培われることで、こどもたちの将来の可能性は大きく広がりそうです。

Comments


bottom of page