こどもたちの意思を尊重するニュージーランドのテ・ファリキ幼児教育。日本でも注目が高まる一方、現場での実践を知る機会は多くありません。本セミナーではニュージーランドの現場から、ラーニングストーリーなど実際に使っているものを紹介しつつ、現場での実践をお伝えしました。日本の園でも取り入れられるポイントが詰まった、実践的な内容をお話ししただき好評をいただきましたので、その概要を2回に分けてお伝えいたします。今回は第二弾です。
■目次
【セミナー実施概要】
ニュージ―ランドの現地園で先生をされている植竹笑子先生、現地で子育てされている西田涼子さんをお招きしてライブ中継しましたシンクアロット特別企画です。
実施日: 2021年9月3日(金)13:00~14:00
内容:
(レポート第一弾)テ・ファリキとは、テ・ファリキのプロセス、各プロセスのポイント
(レポート第二弾)各プロセスの具体例、テーブルセットのコツ、Q&A
ゲスト:
●植竹笑子Uetake Emiko 先生 (Fernside Preschool Teacher)
●西田涼子Nishida Ryko さん (ニュージーランドコーディネーター/現地で子育て中ママ)
●テ・ファリキ実践の具体例
セミナーでは、実際に先生がFernside Preschool で実践された、1歳3か月の男の子のケースについてラーニングプランとラーニングストーリーの実物をご紹介いただきました。本レポートでは概要をお伝えします。
こちらがラーニングストラテジー/プランのフォーマットです。
この例では、12月~1月に計画を立ててほかの先生にも共有し、意見を貰ったうえでゴール設定をしました。具体的には、注力するところとそのための計画や経験を検討し、テ・ファリキの要素の一つを学びの成果として設定しています。そして、2月頃に評価を行いました。
こちらは実際のラーニングストーリーです。
この子は注力するところとして、語彙を増やし、自分の言葉で表現できるようにすることを設定していました。
ラーニングストーリーにはこの子がどんな場面でどんな言葉を発したか、日に日に新しい言葉を学んでいる様子が記載されており、ご両親やほかの先生ともすり合わせたNoticeとして記載してあります。
また、Recognize としては、この男の子に今起きていることは何かが記載してあります。例えば、「ほかの人に伝えたいというニーズが見られる」「他の人と意見を共有する自信を深めている」などです。
そして、引き続きそのゴールに向かっていくことが次のステップとして考えられています。
ここには具体的なアクティビティ内容は記載してありませんが、そのほかの要素、ラーニングプランとラーニングストーリーがリンクして、彼の成長の方向性や過程、状態を理解することができます。
この男の子が次に興味を持ったのはブロック遊びでした。そのため次のラーニングストーリーは、言語表現でなく、手先を使うことや、成功しない時のフラストレーションをどのようにマネージするか、といいった学習にゴールを設定しました。
彼の場合は前回のゴールを早期に達成したため次のゴールを設定しましたが、3か月で達成しなかった場合や興味関心がずれると、3か月を待たずに変えたりと柔軟に対応していきます。
また、現在、ラーニングシステムでは、ほとんどがオンラインなのでシステム上で保護者のアイデアやコメントも貰うことができます。
卒園時にストーリーブックとしてまとめている園もあり、日々の活動の様子やアクティビティで作った作品、親と一緒に遊ぶ写真やオンライン上のコメントなどをまとめていて、親も、子供自身も成長を実感することができます。
●アクティビティ
テーブルセットについてご紹介します。
• こどもたちのクリエイティビティを高める、テ・ファリキのフリープレイ用のセッティングです
• こどもの関心や、それに対する先生の問いかけ次第で、様々な使い方をすることができます
• 一般的にテーブル上に用意することが多いことから、日本では通称”テーブルセット”と呼ばれることが多いです
※「テーブルセット」は明確なワードでなく、Activity on the tableなどと現地では呼ばれています
アクティビティ・テーブルセットで重要なことは、それ自体が、こどもひとりひとりのゴールと学習ストラテジー・プランに結びついたものである、ということです。
例えば、ものづくり、手先をもっと使う、みたいなものがゴールであれば、ブロックなどのコンストラクション系のアクティビティを準備します。
ですので、単に面白いもの、好きそうなものを並べるのは、テ・ファリキのアクティビティ・テーブルセットとしては、少し違います。こどもや状況に応じてセットは臨機応変に変わるべきですので、常に同じものというわけにもいきません。このあたりがテーブルセットでとても大切なポイントです。
いくつか、実際のテーブルセットを見ながら、ゴール設定とアクティビティについてご説明します。
上はコンストラクションのテーブルで、手先を起用に使って遊ぶことに興味があるこどもが使います。下はジャングルと動物のセットです。このように、興味関心を持たせるために、こどもたちが好きなものも使います。
続いて貝や草木のテーブルセットです。マオリの文化はナチュラルリソース(自然のモノ)を使うことを重要視しています。アートを一緒に作ったり、カウンティング(数を数える)が目標であれば一緒に数えたり、グルーピングとして同じ色を集めたりと、様々のゴールに合わせてやることを決めます。 ※色は算数のコンセプトの一つとしてとらえられています
こちらのテーブルセットは、色を混ぜたらどんなものができるか、先生がゴールに合わせて問いかけをすることで、サイエンス、アート、マス、クリエイティビティにもコラージュにもなります。
●テーブルセットのTips
テーブルセットのまとめとして、いくつかポイントをご紹介します。
1)ナチュラルリソースの活用
ひとつは、ナチュラルリソースを使うこと。これはテ・ファリキの指針で推奨されていまして、見ていただいたように、草花や貝殻など、自然由来のものを使うことが多いです
• 草花、貝殻など、基本的には、自然由来のものを使うことが推奨される
• 時には空き箱などの廃棄物を使うことも
2)オープンリソースである
次に、アクティビティは、オープンリソース、つまり目的や使い方は自由であるということです。
こどもの関心とゴール、そしてその場にいる先生の問いかけ次第で、いろんな使い方が可能です。このあたりも柔軟で、たとえば、まだ慣れてない子を優先して居場所として認めてもらうために、すきなものを優先しておく、など、その時その時の状況に応じて、最適に準備をします。
• こどもの関心事と、先生の問いかけ次第
• 例えば、入ってきたばっかりの子(登園に慣れていない子)がいれば、好きなものを置いてあげるなど、園へのbelongings(所属感)を高めるためにも活用できる
3)効果的なセット方法
最後に、セット方法ですが、個人ごとにゴールがありそれにひもづくアクティビティを、とは申しましたが、実態としてはこどもたちのゴール感はいくつかのグループに分けられます。ですので、そのグループ単位でアクティビティをセットすることが多いです。
• 実態としては、完全に個別ではなく、同様のゴール感のこどもたちをグループとして考えて、セットすることが多い
• よく使うものは、コンストラクション、アート、ミュージック、恐竜セット、車セットなど
●Q&Aコーナー
Emiko先生への深堀質問(園の観点で)
Q1)この学習プラン/ラーニングストーリーは本当によかった、というエピソードを教えてください
こども達が毎日楽しんでくれているだけで楽しいですが、ゴール達成時の自信がついた姿や、保護者からの良いフィードバックなどです。
Q2)(テ・ファリキには準拠しない)日本の幼稚園・保育園は、ラーニングストーリーのどんなところを取り入れることができそうですか?
興味関心はそれぞれのこどもに接するうちに見えてくると思うので、先生・保育士の方もゴールについての認識はあると思われます。一方でそれをどのようにフォーマットに落とし込むか、時間をかけることができるかという難しさがありますので、実践までのシステム、プロセスを構築できれば活用できると思います。
Q3)テ・ファリキ教育を実施するにあたり、現場で苦労するところ、課題があるところはどこですか?
アクティビティをセットし準備しても、危ない遊びをしている子や泣いている子がいたりするとケアが必要なのでアクティビティに完全に集中するのは難しい点です。フリープレイの自由さにはつきものの難しさです。また、いろんな人の意見を聴く・準備するといった時間がかり、1週間にこどもに触れあわない時間2時間確保しても不十分な時もあります。
Ryokoさんへの深堀質問(親の観点で)
Q1)保護者として、印象深いラーニングストーリーやそれにまつわるエピソードがあれば教えてください
自分の子供がどのような点に興味を持ってどのような遊びをしているか等、先生からのメッセージやストーリーブックを通じて知ることができる点。また、自宅での様子に確信が持てる、子供の成長が実感ができることです。
Q3)(一般的な日本の幼稚園保育園のイメージと比べて)テ・ファリキ教育でいいなと思う点はどこでしょうか
苦手なこと、得意なことがあるが、無理に急いで苦手を克服するのでなく、好きなことを伸ばしつつ、ゆっくりと苦手なことにも取り組んでいく、というスタンスが個人に合わせたプログラムでよいと思いました。
Q4)テ・ファリキ教育において、保護者として、不安に思ったり、心配だった点はありますか?
あまり心配はなかった。けがやけんかなどの不安はあったが子供社会で起こることであり、学んでいく必要があることとして受け止めていました。
ご参加者様からの質問
Q1)チームで一人の子を見ていくことになると思うが、スタッフミーティング時間の確保方法はどのようにされていますか?
2週間に一回、2時間確保していますがそれだけでなく、フロアに全員がいる時間があり、ミーティング以外でもカジュアルに共有します。ノーコンタクトの時間のことはメモなどで共有しています。
Q2)こどもの記録方法は?
カメラとメモ用紙をポケットに入れており、こどもが話したことやふとした瞬間の写真をとっています。
Q3)テーブルセットは組織内(園内)で設計されるのですか。
各先生で設計され、その際に保護者の方やほかの先生の意見も取り込みます。
Q4)ゴール設定と評価が難しいです。ゴールを達成しなければならないという意識に引っ張られないでしょうか。
評価の言葉の意味は日本の点数をつける、という評価というよりは、達成できればもちろん良いが、今の状態を見極め、次のプロセスを考えるためのチェックポイントとして考えています。大きなゴールでなく、小さなステップを刻む指針にするということです。ラーニングストーリーのいいところとして、自分で振り返ることができる点があります。自分のプロファイルブックをこども達が見るのも好きで、写真を見ていくと成長が確認できます。
【メインスピーカー紹介】
植竹笑子Uetake Emiko 先生 (Fernside Preschool Teacher)
98年からワーホリでニュージーランドへ。12年にカンタベリー大学で教育学準修士取得。現在Fernside Preschoolに勤務(3年半)し、現場でテ・ファリキを実践。カンタベリー補習授業校付属幼稚園の園長として、日本語教育にも携わる。毎日元気いっぱいのこどもたちと楽しく働く。
西田涼子Nishida Ryko さん (ニュージーランドコーディネーター/現地で子育て中ママ)
97年からニュージーランド在住。松下電器に勤めるもバブル崩壊時に価値観が変化、ニュージーランドに移住。05年にニュージーランド人と国際結婚し現在5歳の息子の子育て中。ニュージーランドのリアルな生活や良いところをYoutubeで発信中。「ニュージ-ランドシンプルリッチ生活」で検索。
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